聖剣伝説3 | 〜5年目の真実〜 |
1995年9月30日、当時スクウェア作品の中でもFF・ロマサガに次ぐ人気シリーズであった聖剣シリーズの第3作目となる「聖剣伝説3」が発売された。「聖剣伝説」は、ゲームボーイ用アクションRPGとして第1作目が発表され、当時はFF外伝というサブタイトルが銘打たれていたが、その後はプラットフォームをスーパーファミコンへと移し、「聖剣伝説2」が発売された事で新シリーズとして確固たる地位を築いた。そして第3作目となる「聖剣伝説3」は、キャラクターデザインに結城信輝氏を迎え、シリ−ズ最高峰のクオリティを誇る作品として完成したのである。
クロノトリガー発売から数カ月が経った初夏。16才の高校2年生となっていた私の元に再びモニタ−募集のハガキが舞い込んだのはその頃だった。テストプレイモニターという仕事にやりがいを感じた私は、一も二もなくクロノトリガーに続くこのアルバイトにも応募する事を決意するのだった。
ゲ−ム作りの現場に再び携わるチャンスを得た作品「聖剣伝説3」が、無事どうにか世に送り出されてようやく5年。その過程に存在していた語られざる真実を、今ここに明らかにする。
※スクウェア社との間で契約された守秘義務期間は5年間(聖剣3は4年間だったかも)であった事を明示しておく。
聖剣3のデバッグに関して集められたアルバイトモニターは、クロノトリガーの時と同様、基本的にはハガキによって募集された。ただし、クロノトリガーの際は、ファイナルファンタジ−フェスタ'94の参加者を対象とした新規公募が含まれていたが、この頃からはモニタ−の登録制が整備され始めており、今回ハガキの送付対象となったのは登録者のみであったと考えられる。そこでまずは、ハガキの文面を以下に紹介する事とする。
新ソフト体験モニター募集 スクウェアから今後、発売されるスーパーファミコンゲ−ムのモニタ−を募集して います。開発中のソフトを実際にプレイして、内容をチェックして頂くのが仕事です。 ファミコンが好きな人、スクウェアの発売前のソフトをいち早く体験したい人、 ふるって参加してください。
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聖剣伝説3のデバッグにおいては、特殊モニターと準特殊モニターという、一般モニターとは別の枠組みが設けられていた。特殊モニターは、クロノトリガーやフロントミッションの時から特殊モニターやモニター管理を行っていた精鋭の中でも、更に選び抜かれた10人によって組織されたエリ−ト部隊であり、一般モニターの開始に先駆けて体験版などの段階からデバッグに携わっていたという。準特殊モニターは、一般モニターの中からバグの検出に優れた数人を採用したもので、途中から特殊モニターに合流したものである。特殊モニターは、一般モニターとは別の開発現場により近い場所でモニター作業に携わり、作業内容も特定のバグの検証を行うなどの、文字どおり特殊な業務に当たっていた。エンディングテロップに名前が列ねられているのは、こうした特殊モニターの人々である。
30時間耐久デバッグ聖剣伝説3のデバッグも大詰めを迎えた頃、最終的な詰めの作業として「30時間耐久デバッグ」を行った事があった。これは読んで字の如く、30時間連続で集中的にモニター作業を行うものである。恐らくは、任天堂に提出するROMの最終的なチェックがこの目的であったと思われる。これに参加したのはアルバイトモニターだけではなく、社内総動員で少しでも手の空いている人が駆り出されていたようだった。アルバイトに対しては、参加報酬50,000円均一に加え、時間内で最後までクリアするとボーナス10,000円が支払われる事になっていたが、きょ〜じゅ氏は30時間内で2回クリアしたのに60,000円しか貰えなかったそうである。なお、私は学校があったので参加できなかった。
引っ越しの影響聖剣伝説3のデバッグ期間中、スクウェア社は恵比寿から目黒への引っ越しを行った。これに伴い、デバッグルームも恵比寿から目黒へと途中から移動する事になったのだが、聖剣伝説3の開発陣は開発終了まで恵比寿で開発業務を続けていた。これは恐らく、引っ越しによる時間的ロスの発生を避ける為であろう。開発現場とモニタールームとが距離的に寸断化される事による弊害はさほど感じられなかったが、私自身はこの影響を一度だけ受けた。モニタ−ル−ムの引っ越し後、後述するボス戦でのフリーズバグが発生した上、実機上では再現性も確認できたという事で、開発機材のエミュレータ上で再現する為に私が恵比寿まで呼ばれる事になったのである。数時間に及ぶエミュレ−タ上での再現作業にも関わらず、フリーズバグはなかなか再現しなかったのだが、夜も更けてこれが最後の一回、という時にようやくバグは再現し、鶴園プロデューサーから聖剣3のサントラをご褒美に頂いて帰った、という思い出がある。
届かなかったモニターの声聖剣伝説3のバランス調整について(今後執筆予定)
聖剣伝説3の開発中には存在していた要素のいくつかは、容量や時間、あるいはバグの問題で削られていったモノがいくつか存在している。ここに紹介するのはモニターとして関わる間に把握できたものだけなので、実際にはもっと多くのモノが仕様変更されていったものと思われるが、それらは開発の現場に携わっていたスタッフのみが知りうる真実なのであろう。
消えたボスキャラ「バイロン」 |
聖剣伝説3の仕様変更の中で、最も大きいのがこのボスキャラ「バイロン」の削除だろう。バイロンは巨大イカをモチーフにした中ボスキャラで、火山島ブッカの最深部で現れる仕様であった。常に2本の触手が画面上に現れていて、ダメージを与えていくと触手が引っ込んで新しい触手が出てくる、というボスだったのだが、触手の処理を行う部分でハングアップするバグが多数報告されていた。しばらくは重点的にバイロンのバグフィクスを試みていた時期があったが、最終的には直らないという判断が下されたのであろう。結果、製品版では火山島ブッカで最深部まで到達すると、他のボスキャラが出現する時と同様に、入り口が塞がれて「閉じこめられた!」というメッセージが出るが、ボスキャラは登場せずにそのまま邪眼の伯爵との会話イベントへと移行するようになっている。最深部直前にあるセーブポイントが金の女神像になっているのは、ここにボスが存在した事の唯一の名残だと言えるだろう。 |
幻の必殺技「ダークバット旋風」 |
聖剣伝説3のフィールドバトルにおける技は、キャラの動きを止めずにリアルタイム処理されるものと、キャラの動きを一旦停止させてエフェクト処理へ移行するものの2種類に大別できる。プレイヤーキャラが使用する技を例にとると、LV1必殺技が前者であり、魔法や、LV2・LV3の必殺技が後者である。これは敵キャラの技に関しても同様にして2種類の大別ができるのだが、そのうちリアルタイム処理される技に関しては「リストに書かれている技を敵キャラが実際に使用してくるかどうか」というチェックを行う指示をされた事があった。その時に渡されたリストの中の一つに、邪眼の伯爵の必殺技「ダークバット旋風」という名前は書かれていたのである。実際には、開発中のROMでもその技を見る事はできず、結局使ってこない仕様になっていたのが後で分かったワケだが、モニタールームへ様子を見に来ていた担当開発者がその事実を聞くと、憤り混じりにいたく悔しがっていた。何でも「ダークバット旋風」という技は、バットマン等の映画やアニメを随分と研究して作り上げた渾身の作品だったのだそうだ。当時は捨てゼリフを吐くかのように「次回作では必ず入れてやる」と言っていたが、その後ダークバット旋風が日の目を見たかどうかは定かではない。 |
隠しコマンドは昇竜拳 |
聖剣伝説3の開発がまだ大詰めに入る前段階だった頃、モニター用に焼かれたROMの中にデバッグコマンドの仕込まれていた時期があった。デバッグコマンドは、入力することで強制的に、画面上のキャラに一定の動きをさせたり、サウンドエフェクトを発生させるようになっており、テスト動作が終了するとゲーム処理が中断されて、そのままゲームを進めることはできないようになっていた。そしてそのコマンドが、「2PのLRを押しながら、十字キーでテスト項目に対応したコマンドを入力してYボタン」だった。これは開発側から開示されたものではないので独自に様々なコマンドを試してみたワケだが、↓→→Yや、→↓→Yなど、明らかに格闘ゲームをイメージしたものが多かった。これを発見したきっかけは、2人同時プレイのテストをしていた時に、キーをガチャガチャ入力していたらキャラクターが変な動きをしてハングアップした、という事があったので、これをバグとして報告したワケだが、その後にバグの原因や再現性を調べて行くうちにどうやらデバッグコマンドだったらしい、という事が発覚したのである。それにしても、宿屋のオヤジがボス撃破時の効果音と共に画面外に走り去り、効果音最後の爆発音が鳴ると同時にハングアップするという現象にはなかなかに笑えた。なお、私がコマンドを発見した翌日以降のモニター用ROMからは、デバッグコマンドは削除されていた。 |
ゲームにバグは付き物であり、聖剣伝説3もまた例外ではない。聖剣伝説2には、ボス戦終了時に部屋から出られなくなる現象があり、このバグによって世間の評価を大きく落としたのは有名な所だが、その意味では聖剣伝説3で大きな問題が顕在化する事はなかったと言える。しかしながら、モニタ−期間中に見つかったバグの中には、製品版でも再現する可能性を残すモノもある。そこで、ここでは開発中に存在したバグの幾つかを紹介しよう。
「ランプ花の森」から抜けられない | |
やり方 | 「ランプ花の森」で、上、左、右の3方向に出入り口があり、横に1画面半の広さがある部屋で、右の出入り口に設定されているマップジャンプタイルの下端と地形との隙間へ操作キャラを滑り込ませると、次のマップへとジャンプせずに画面外へ出る事が出来てしまう。対処法としては、画面外に出てしまったキャラ以外を操作して他のマップへ一旦ジャンプする事で問題なく抜ける事ができるが、3キャラとも故意に画面外へ出してしまうと「風の太鼓」を使ってフラミーを呼ぶ以外に脱出する方法が無くなる為、「風の太鼓」を入手前の時点でこのバグを3キャラとも実行すると完全なハマりになる。 |
解説 | マップジャンプは、操作キャラがマップ上に設定されているマップジャンプタイルを踏む事で起こるようになっている。という事は、マップジャンプタイルは視覚的なグラフィックとしての地形に合わせるように設定されていなければならないワケだが、このバグはそこに穴があった為に発生したモノである。しかしこのバグが発生する箇所も、実際にやってみれば分かるが通常のプレイをしている範囲でこうした現象に陥る可能性は低く、運良く隙間に入り込んでしまった為にたまたま発覚したに過ぎない。そのため、同様の未発見バグが存在してもおかしくはないだろう。なお、このバグが発覚しながらも製品版に修正が加えられていないのは、発見されたのが開発が終了した後の予備デバッグ期間中だった為である。 |
ボス戦はやっぱり止まる | |
やり方 | 「バードのうろこ」を所持した状態で中ボスとの戦闘に入り、ボスを倒す直前に「バードのうろこ」を使用する。「バードのうろこ」を使うと、「命中率が上がった」等のメッセージが4つ表示されるが、全ての表示が終わる前にボスを倒して爆発エフェクトに移行させる。そこでセレクト、L、R、X、Bなどのボタンを連打すると、ボスの爆発エフェクト途中でフリーズする。 |
解説 | ボスの爆発エフェクトの最中は通常、キーの入力がロックされているが、メッセージウィンドウの処理を重ねる事でキ−入力を受け付けさせる隙間を作り、あとはボタンを連打する事でオーバーフローを起こさせるのがこのバグである。こう書くと簡単に再現できそうな感じもするが、実際にはアイテム使用のタイミングもシビアである上、必殺コマンダーを使って秒間30発の連射によって発生させたバグなので、通常のプレイ環境でこのバグが再現する事はまずないだろう。なお、このバグを実際に発生させたのは2回目の対ゴ−ヴァ戦であった事を付記しておく。製品版でもこの方法でバグが再現するかどうかは実際には確認していないが、恐らくこのバグに関しては特にこれといった対処をしたとは思えないので再現するだろうと思われる。ちなみに、ボス戦で止まるという事に関しては、製品版の対竜帝戦で2回のバグ(1つは強制リセット、1つはグラフィックが壊れてのフリーズ)が発生したのを確認しているので、製品版を通常にプレイするだけでもボス戦でバグが発生する事は証明されている。 |
黒ラビに関する怪奇現象 情報提供:きょ〜じゅ氏 | |
やり方 | 1)部屋に入るとラスボス第一形態の曲(Sacrifice Part Two)が流れるが、黒ラビを倒さずに逃げ、すぐにまた部屋へ入ると、BGMが消えたままでSEだけが鳴る状態になる。 2)黒ラビがグレーとデーモンを召喚した状態で、黒ラビだけを倒して外に出てから再び部屋に入ると、『なにか、いる!』と表示されるが実際には何もいない。 ※黒ラビの出現方法:紅蓮の魔導師を倒した後、ドラゴンズホ−ル内に隠し通路が出現するので、そこに入ると黒ラビとの戦闘になる。 |
解説 | 黒ラビは、聖剣3の中でも数少ない隠し要素であると言える。出現方法から分かる通り、ケヴィン・シャルロッテ・ホークアイ・リースが主人公の場合はドラゴンズホールに行く事自体ができない為、主人公はデュランかアンジェラでなければ黒ラビを出現させる事ができない。また、黒ラビの部屋はボス戦(?)でありながらも、入口が閉まらずに逃げる事ができる仕様になっている。この2つのバグは、逃げてしまった際のフラグ管理がきちんとされてない為に起こるものだと言えるが、いわゆる「遊び要素」であることを考えれば許せる範囲のバグなのかも知れない。私自身、モニタ−期間中は黒ラビの存在自体知らなかったくらいですから。 |
聖剣伝説3というゲームにモニターとして関わった事は、その後の私の人生に多大なる影響を与える事となった。もしこの時にモニターをしていなかったなら、私の人生は大きく違ったものになっていた事は間違いないだろう。でも、そんな事実を私は、悔やむべきなのか、感謝すべきなのか、5年経った今でさえも、いや、5年経った今だからこそ、その答えを出す事ができない。確かな事は唯一つ、聖剣伝説3が在って今の私が在り、そしてその現実は覆らないという事だけだ。
聖剣伝説3というゲームにモニターとして関われた事に心から感謝できる、そんな未来をつかむ為に私はこれからを生きて行きたい。ありがとうは、本当に感謝できるようになるその時までとっておきます。