クロノトリガー | 〜5年目の真実〜 |
1995年3月11日、スクウェアから発売された1本のRPGがあった。その名は「クロノトリガー」。4年後の1999年、Play Stationという新たなプラットフォームでもリバイバル発売された同タイトルは、坂口博信・堀井雄二・鳥山明の3人がタッグを組んだ「ドリームプロジェクト」による作品として話題を呼んだ。実務開発を行うスクウェアが、社内開発陣の粋を集めた豪華スタッフを取り揃えた事だけを見ても、このゲームに賭けた意気込みの大きさを知る事ができるだろう。
当時15才の高校1年生であった私は、このゲームにアルバイトモニターとして関わる事になった。開発中のゲームに触れる事ができる、それは一介のユーザでしかなかった私にとって夢のような話であったワケだが、社外者を雇い入れる上で会社側は「情報漏洩」に特に留意し、アルバイトモニターには雇用契約時に5年間の守秘義務を課せられていた。
あれから5年。今ようやく語る事のできる真実を、ここに公開しよう‥‥。
クロノトリガーのデバッグに関して集められたアルバイトモニターは、基本的にはハガキによって募集された。ここでは、当時郵送されたハガキの文面を抜粋して紹介する。
スクウェアからのお知らせ 新ソフト体験モニター大募集!! 去る2月に開催致しました、ファイナルファンタジ−フェスタ'94への参加 希望を頂きまして誠にありがとうございました。 さて、スクウェアではイベントに参加してくださった方々を対象に今後、発 売されるゲ−ムのモニタ−を大募集します。開発中のソフトを実際にプレイし て内容をチェックして頂くのが仕事ですのでふるって参加してください。 尚、今回は同時期にA,B2種類のゲームモニターを実施しますので必ず、 A,Bいずれかを選びその日程の中で希望する期間を選んでください。 ■実施期間
必ず、A,Bそれぞれの日程の中で希望期間を選んで下さい。
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あと、これに応募した理由が一つあります。 Vジャンプさんが募集する前に、スクウェアさんが モニターを募集するハガキが送られてきました。 ぼくはうれしくてさっそく応募しようと、応募方法 見てボーゼンとしました。送られてきた6日なのに 締め切りが3日の日になっていたのです。 どうやってだすんですか。3日前の日に。 でもあきらめずにだしましたけど、なんの連絡も ありません。メーカーさんがこんなミスをするなん てくやしくてしょうがありません。文句をいい たかったけど、スクウェアさんなのでやめました。 |
クロノトリガーには、マスタ−アップ直前に発見されたいくつかのバグが、製品版にも残ってしまっている事が分かっている。スクウェアブランドのバグに関しては、最近ではFF8のバグ騒動が記憶に新しいところだが、クロノトリガーに残っているバグについては、FF8のモノのように通常のプレイをしていて陥る危険性が、殆どないと言ってよいモノばかりである。そんなバグたちだからこそ、今なら笑って振り返ることができると思うので、以下にご紹介します。いくつかはPlay Station版でも再現するでしょうから(確認してないですけど)、話のタネに試してみては如何でしょうか。
「時の最果て」で分身(ハマリ) | |
やり方 | 「時の最果て」で中央に居る老人に話しかけた後、メッセージウィンドウが開いている間に画面左側にある光の柱(ワープゾーン)の方へ移動し、光の柱を通りながらメッセージを送り切らないように決定ボタンを押す。これを素早く、できるだけ多くの柱について実行した後、メッセージウィンドウを閉じずに画面右端のシルバードの船着き場へ移動する。ここでメッセージを全て送り切ると、「〜年に行きますか?」という光の柱で決定ボタンを押した時のメッセージと、「シルバードに乗りますか?」という船着き場でのメッセージが次々に発生するので、これらに対してひたすら「はい」と答え続ける。すると、光の柱でワープする時の画面上部へキャラが飛んで行くアニメーションと、シルバードに乗る際の画面下部へキャラが飛び下りて行くアニメーションとが混同し、キャラが高速で画面を上から下へと落下し続け、そのまま先へ進まずに操作不能となる。なお、このバグはセーブタイトルが「時の卵」の時だけ発生する。 |
解説 | クロノトリガーが雑誌で紹介され出した頃に目玉の一つとされていたエーテルシステム(ATEL-Active Time Entertainment Logic)の悲しき名残り。メッセージの途中でも画面の中を動き回れることで自由度の高いフィールド作りや演出を実現しようとしたが、実際には不具合が多いために部分的にしか取り入れられていない。このバグも、老人に話しかけている最中に動き回れる事が原因で発生する不具合であるため、発見されてからすぐに、老人に話しかけた時にも自キャラの移動にロックをかけるよう対処が入れられたのだが、セーブタイトルが「時の卵」の時のメッセージだけは対処が漏れていたようである。 |
「金の石」イベント進行異常(ハングアップ) | |
やり方 | 「デナドロ山」で、金の石を手に入れることができるマップまで行く。途中で切れているハシゴを降りる前の状態で、自キャラ隊列の先頭をカエルにして、敵キャラ「アウトロー」が投げてくる石に当たると、本来ならカエルが石をキャッチして「きんのいし」を手に入れる事ができるのだが、石が当たってからイベントが発生するまでの間にメニューを開き、カエルを先頭から外すと、投石が金の石に変わるイベントがキャンセルされる。この状態でハシゴを降り、ハシゴの下に居る敵キャラと戦闘をしたあと、もう一度カエルを隊列の先頭に戻してから右側のハシゴを上る。すると、アウトローにハシゴから突き落とされるイベントが発生するが、ハシゴの下に落ちたところで動かなくなりハングアップ。 |
解説 | イベント最中にメニューで割り込んだ結果、イベントの開始と終了の処理が正常に行われず、次のイベントで読み違いを引き起こす、という所だろうか。原因としては単純なので、操作キーのロックを行うタイミングを調整すれば対処できたのだろうけど、見つけるのが遅かったようだ。 |
「ガルディア王裁判」イベント進行異常(ハングアップ) | |
やり方 | 中世で「虹のかいがら」を手に入れた後、現代のガルディア城に行くとガルディア王裁判イベントが発生している。裁判室の前に立っている衛兵に、マールをパーティに入れた状態で話し掛けるとイベントが発生するが、この時、Aボタン(話し掛ける)を押した直後にYボタン(メンバーチェンジ)を押し、マールをパーティから外してフィールドに復帰する。ここで、衛兵をすり抜けてキャラが裁判室に入って行けば成功。裁判室内でマ−ル不在のままイベントが進行し、裁判室から退出させられる。通常ではこの時、裁判室のドアは閉っていて入れず、地下に回らねばならないが、裁判室のドアは開いているのですぐに再び中へ入る。すると、法廷内のイベントシーンが流れた後に地下へ飛ばされ、ミアンヌ・バイターと戦う所に出る。ここで画面下方には戻らずにこれに勝った後、画面上方へ進み、「にじのかけら」を入手してから画面下方へ戻る。本来ならば、地下で最初に戦うハズのバイター×2が残って居るので、これを倒すと、マールが裁判所のステンドグラスを破って廷内に侵入するイベントへと飛び、ヤクラ13世との戦闘になる。最後にこれに勝つと、本来ならばマールとガルディア王の会話イベントシーンが始まる所で、マールがパーティに居ないためにイベントが進行せずハングアップする。 |
解説 | 衛兵に話しかけてイベントを起動させるが、メンバーチェンジを割り込ませる事で終了処理が完全に行われず、裁判室のドアが開きっぱなしになった事でイベントの順番が狂い、マールの居ない状態でイベントに突入することが可能になってしまった為に起こるバグ。Aボタンを押してからYボタンを押すまでの時間は1/30秒〜1/15秒くらいで、これより早いとイベントが起動せず、これより遅いと衛兵のメッセージが始まってしまい正常のイベントが進行してしまう。この数フレームの間隙を縫って意図的に割り込みを行わない限り、このバグはまず発生し得ないワケだが、そこに割り込める隙間があると判明しただけでも驚きである。もしかしたら、見つかっていない同種のバグもあるのかも知れない。 |
「ミラクルショット」イベント進行異常(ハングアップ) | |
やり方 | 「にじのかけら」入手後、ルッカがパーティに居る状態でルッカの家に行くと「ミラクルショット」を作るイベントが発生するが、完成する前の画面が暗くなって行く時にYボタン(メンバーチェンジ)を押し、メンバーからルッカを外して復帰すると、ルッカが居ないためにイベントが進行せず、ハングアップする。 |
解説 | イベント中にメニューを割り込ませる事ができてしまうために発生する不具合の典型例。 |
「光のほこら」キャラめり込み(ハマり) | |
やり方 | 現代の「光のほこら」に「あんこくせき」を置くイベントで、「あんこくせきを置きますか?」というメッセ−ジに対して「いいえ」を選び、直後にキーを上に入れると先頭キャラが若干だけ前に進む。これを続けて5回程度繰り替えした所であんこくせきを置くと、キャラの立ち位置とあんこくせきが重なってしまい、そこから一歩も動けなくなる。 |
解説 | メッセージとメッセージの間に、ドット単位ながら移動できる時間差が存在する事を逆手に取ったバグ。と言っても、キ−操作を解放するタイミングを遅らせると操作の快適性を損なう怖れもあり、原因は単純ながら根が深く、対処は如何ともし難かったのではないだろうか。 |
私にとってクロノトリガーは、初めて「モニター」という「仕事」として関わったゲームである。それ以前に、アルバイトをするコト自体が私にとって初めての経験だった。何もかもが初めて尽くしだったけれど、そうだったからこそ、持ち得る力の全てを注ぎ込む事ができたのかも知れない。いずれにしても、クロノトリガーは文字どおり、血と汗と涙とを流しながら携わり、完成した作品である。思い入れがあるからこそ、血を吐くまで働いたし、汗をかくくらい頑張ったし、エンディングを見て涙を流した。アルバイトではあったけれど、開発者の一員として自分の仕事に誇りを持つ事ができた。ここで得た経験は、自分の中で今も大きな意味を持つものであると信じている。そんな仕事に関われた事を、そんなゲームに名を刻めた事を、私は感謝し、誇りに思っている。